高木尚子さんへのリレーインタビュー

ナガノユキノさんからご紹介いただいた方は、ディレクターでありヨガのインストラクターでもある高木尚子さんです。
当日19時に地下鉄の春日駅で待ち合せた私たちは、もちろん初対面です。
「初対面なのに何て親しそうに話をしてくれるのだろう…」歩きながらそう思った私はすぐに、「それは紹介者のナガノユキノさんの人柄なんだろうなあ」という結論に達して、高木尚子さんが予約されていた喫茶店に向かいました。
よく見ると高木尚子さんは、大きなリュックに風呂敷のようなものをもって歩いていました。

「何を飲まれますか?」と私が尋ねると、レジの前で高木尚子さんは1分程熟考なさった後(笑)、「ホットコーヒーお願いします」と。出鼻をくじかれた私も「ホットお願いします」。
席に着いてすぐに、高木尚子さんはご自分のことを話し始めました。今回はインタビューというよりも、会話をしているようなノリで幕が開きました。(聞き手 昆野)

――どんなお子さんでしたか?

高木尚子さん:とにかく自然が大好きな子どもでした。
もの心ついた時から、工事現場などをみる度に地中に居る小さな生物たちが「かわいそう」と感じているような子どもでした。小学1年生の時の作文の一行目に、「私は自然が大好きです!」と書いていたのを覚えています。
その頃から、今の社会は自然を壊してしまっているけど、でもだからと言って古い時代の暮らしに戻ることはできないのだから、この発達した近代技術と自然が共存できるような時代になっていくといいな…。そんな思いを作文にしていました。

――すごい小学1年生ですね!ご自分の成長とともに、どのように変化していきましたか?

高木尚子さん:子どもの頃からもっていた感性が、周囲の大人には受け入れてもらえないような社会なんだと気がつき始めました。
母は世間体を大切にする人でしたので、ありのままの私ではなく、世間体の価値観で私を見ていた人でした。父はビジネスマンだったのでどちらかというと経済優先という人でしたから、そういう大人の中で私は子どもなりにずっと生きづらさを感じていました。
大人社会の現実を目の当たりにして、自分の内奥から込み上げてくる素直な感性とか感覚を殺して、表に出せないまま過ごしてきました…。

――学生の頃はどんな感じでしたか?何かきっかけはありました?

高木尚子さん:大学時代は文化人類学を選考しました。以前から心理学にも興味がありましたが当時私が触れた心理学は統計学だったので関心が無くなり、「文化」という個人の心理を超えた集団心理に関心を寄せるになりました。
文化というものは、集団心理が結びついたものが表出したものだと考えています。人類の共通する何か本質的なものが、そこにあるような気がしてならなかったんです。そしてそれが、経済とかとは比べものにならないほど、世界を認識するのに一番大切なものなんじゃないかと思うようになりました。それから先住民族の文化や精神世界とか儀礼、儀式などにみる集合的な精神世界にすごく興味をもち始めました。

それって追求していくと、自然の摂理との共存だったり敬いの精神などが表現され実践されている文化が多いんです。しかし今、現代の日本社会や文化をみるとかなり切り離されているというか、乖離してしまっています。
このままでは、日本は間違った方向に行ってしまうという懸念がずっとあったんですよね。

日本の昔の文化を追求していくと、やはり自然と共存する文化が脈々と受け継がれていました。特に縄文時代は、すごく長い間持続可能な文化が育まれていたことが明らかになってきています。島国である日本は、世界のいろいろな民族の血が融合しながら豊かな文化を育んでいたと注目されています。

――私たち日本人は単一民族という意識が強いですが、実はこれほどありとあらゆる民族の血が混じっている民族は世界中見渡しても珍しいという記事を見かけたことがあります。その時は「ホントかよ?」と思っていましたが、お話を聞いていると本当のようですね。

高木尚子さん:そうですねえ。私自身も沖縄やアイヌのような土着の文化に、すごく関心があるんです。そしてそれを紐解いていくと縄文時代の文化につながっていきます。私はなぜか、そういった日本の土着文化やチベット密教、あるいは環太平洋地域のタヒチ、ハワイ、ニュージーランドの島々の文化圏にもとても興味を掻き立てられるんです。自分のDNAの中に、惹かれる、通じる何かがあるんだと思えてならないんです。
そして縄文人の精神性を再度日本人が取り戻すことで、この日本は世界平和へのキーになり、そのモデルの国になれると言われています。私もそう思っています。

――それってナガノユキノさんにも通じるお話しですね(笑)。

高木尚子さん:そうなんです!以前、ユキノさんを栃木県塩谷町の放射性物質最終処理処分場予定地へご案内した時にお聞きしたニューヨークでの体験に、私もかなり衝撃を受けました。その時ユキノさんにも、何かが降りてきたようですね(笑)。

――日本人が、見失い忘れている日本の文化の中に、これからの世界にとってとても役に立つ重要なものがありますよね。それはすべての自然に感謝する心だったり…。

高木尚子さん:そうなんですよ。

――そうですよね、間違いない!二人で言っててもしょうがないけどね(大笑)。ところで今、どのような仕事をされていますか?

高木尚子さん:立派なお仕事はしていませんが、「お志事」として、一つにテトラゼミのディレクターをしていて、もう一つはヨガを教えています。また、父の会社の手伝いをしながら父の健康管理のお志事をしていましたが、今は本人がだいぶ目覚めてきたのでもうお役目卒業です(笑)。
3年ほど前から地元で、例えば環境NGOナマケモノ倶楽部が製作した映画や、ユナイテッドピープルの映画などの自主上映を熱心に開催し、地元に居る「持続可能で平和な地球社会」を願う仲間たちと繋がり始めました。そして今は、トランジションタウン栃の木(宇都宮)を立ち上げようとしています。

――多様なお仕事ですが、何か転機とか出会いのようなものがあったのですか?

高木尚子さん:伊勢谷友介さんがパーソナリティーのアースラジオで、放送作家谷崎テトラさんのお話を聞いたことが転機になっていると思います。アースラジオのお話を聞いて、自分の感性に「間違いない!」という自信を持つようになり、『持続可能で平和な社会』を目指してとにかく感性の趣くまま取り組んでいきたいと明確に思えるようになりました。
その後、何とかテトラさんとコンタクトを取れるようになり、テトラゼミをお手伝いするようになったのですが、ゼミの中で特に好きなのが1968年12月24日にアポロ8号乗組員が月面から撮影した地球の映像のシーンです。人類の歴史において、私たちがいる地球をあの映像によって初めて見ることができた。それがつい50年ほど前の出来事。それまで人類は一度も、この地球を見たことがなかったんですよね。ゼミでは必ず、文化、経済、政治、アート、平和、どんなテーマでも地球の映像を参加者皆さまと共有するところから始まります。「地球の姿」は、「自分の姿」。それは、参加者皆様とも共通する真理。私にとっては地球の映像は、毎回自分自身の姿を再イメージする瞑想のような時間です。

そしてヨガも自分を変えてくれました。素直な感性を閉じ込めていた固い心の殻が、ヨガによってだんだん柔らかくほぐされていきました。そしてアースラジオのテトラさんのお話によって眠っていた魂にスイッチが入り、殻をバンっとつき破り表に出てくることが出来たのです。ずっと小さいころから硬い殻に閉じこもっていましたが、ヨガやテトラさんのお話に巡り会って変わり始めたんですよね。

自分が変わった途端、世界が一気に開いてしまいました。つながる世界、出会う人々がまったく変わってしましました。

――テトラゼミとはどういうものですか?

高木尚子さん:『ワールドシフト&パラダイムシフトの学校』と言い、教育、政治、経済、文化活動などのあらゆる分野を超えて繋がるビジョンを共有し、みんなが少しづつ意識や行動をシフトさせることによって、地球全体を『持続可能で平和な社会』へシフトしていこうという学び場です。
例えばアートの場合は、まず、アートとは何かということから問い始めます。そしてアートを「リベラルアート(藝術)」と捉え直した場合に見えてくるアート、世の中の常識を覆す衝撃的なアーティストやアート的な活動の膨大なデータを紹介してくれます。
さらに『社会彫刻』といった、社会的な構造の変革を促すアクションやアート的な仕掛け、活動などもアートとして捉えるマインドセットへ誘います。
私自身、テトラゼミを開催すること自体が『社会彫刻』的なアートアクションだと考えています。

―― 一方で、ヨガを通じて感じる世界観のようなものがあるんですか?

高木尚子さん:普段の生活の中で、「ねばならない」という感じで規則や体制にとらわれていると、考え方や心が凝り固まってしまう傾向になりがちですが、単純にボディそのものと向き合い少しずつ柔らかくしていくことで心もほぐれてくると、本当の自分自身の願いや欲求というものが出てきます。
心は嘘をつきますが体は嘘をつかない。そして魂には嘘がない。社会に捉われない本来の自分の素直な気持ちを、自分で客観視できるようになる。そんな感じがしています。

身体は宇宙そのものです。ですから、ヨガは宇宙の摂理やパターンといった真理をお一人お一人がご自身で探しに行ける入り口のような気がしています。
またヨガとは『繋がる』という意味なので、ボディ、マインド、スピリットが繋がることと、さらに社会や友人、家族との繋がりに注意深く意識を向けてその繋がり方自体を捉え直すこともヨガだと考えています。私にとっては社会活動もヨガの一つなんです。

――本当の自分に出会えるというのは、すごく大切なことですね。例えば以前読んだ『14歳からの哲学(池田晶子 著)』という本の冒頭で、まず「自分とは誰か」という投げかけがあります。これはとても重要なことで、エゴを認識し対処していく上で、思考ではなく意識レベルで理解しておく必要があるようですね。

高木尚子さん:そうですね。ヨガを通じて、一人ひとりがじっくりと自分自身を見つめる感覚が得られると、地球全体が自然と『持続可能で平和な社会』になっていくと思っています。目覚めていくという感じですね。

――今後さらに、どういうことに取り組んでいきたいと思っていますか?

高木尚子さん:来年は『パーマカルチャー』というものに、積極的に取り組んでいきたいと思っています。『パーマカルチャー』はデザイン思考といって、現状の繋がり方のシステムやメカニズムを体系的に捉えデザインしていくカルチャーです。その手法を活用して暮らしを創造するトランジションタウンを立ち上げます。
具体的には、例えばフォレストガーデンという『食べられる森』づくりを行っていきたいなと考えています。多種多様な植物があり、多くの鳥や虫たちが訪れる「立体農」とも呼ばれている森のようなガーデンで生態系の回復の一助にもあるガーデンを目指します。興味をもっている人と一緒につくり、さらに出来たものをみんなで共有する環境を手元足元から創っていきたいと考えています。
先日地元で開催した、共生革命家ソーヤー海くんの『アメリカパーマカルチャーツアー』報告会に来てくれた皆さんも、宇都宮からトランジションタウンを立ち上げることにとても興味を持って下さったので、具体的に一緒に動いていけるような気がしています。

――ご自分の体験を通して、子どもたちに何を伝えていきたいですか?

高木尚子さん:今の子どもたちは、『生まれながらにして、魂が成熟した状態』だと感じています。私たち大人は彼らの声に耳を傾けて、逆に彼らに教えてもらう姿勢になる方が良いと思います。感性の趣くまま思い切り様々な事にチャレンジして欲しいと思います。

――そうですよね!私もそう思っています。「思う存分生きてほしい」ただそれだけです。

このインタビューの途中で喫茶店が閉店となったため、録音を途中で止め、私たちは次の店に向かいました。次の店も高木尚子さんが予約してくださった、いい感じの居酒屋さんでした。カウンターに置いたiPhoneの録音をONにして、その後しばらく私たちは会話を続けました。

「そろそろ閉店です」という店員さんの声を聞いて、録音をOFFにしようと思った私は、自分の眼を疑いました…。録音をOFFにするずっと前に、OFFでした。とほほ。。。
「いいですよ、もう一度インタビューし直しても。」と高木さんは言ってくださいました。そして続けて「これって、もう一回会えってことですよね。」
やあ、さすがです!これで私は救われました。

結局その一週間後に再度お会いし、高木尚子さんの世界観をさらに掘り下げてお聞きしこの記事をまとめるができました。
師走の慌ただしい中、2度もお時間を割いていただき本当にありがとうございました。

■高木尚子さんのプロフィール

「繋がる」を意味するヨガの実践を通して、魂、マインド、身体、そして地球との繋がりを促すと同時に、持続可能で平和な地球社会を目指すエンゲイジドブッディスト。
大学時代は文化人類学、大学院時代は民族音楽学を学ぶ。
「命」を主軸とした持続可能で平和な地球社会へ、文明の転換(ワールドシフト)を提唱しているワールドシフト・ネットワークジャパン代表理事の谷崎テトラさんと共に、「ワールドシフト&パラダイムシフト(新しい価値観への転換)の学校テトラゼミ」を開催している。地元の栃木県宇都宮市でも、「関係性のデザイン思考」を体系化したパーマカルチャーの知恵を活かし、人と人、人と自然の繋がりを大切にした暮らし創りを目指してトランジションタウン運動をスタート。勉強会、フィールドワーク、ワークショップ、
ヨガ、歌、舞、祈りなど、あらゆる角度から持続可能で平和な地球社会創りを目指す。

<写真:五色塚古墳にて>

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