窪田友樹さんへのリレーインタビュー

パフォーマンス集団『ザ・レインボーズ』代表の宮城朱史(あかし)さんからのリレーインタビューは、アサヒサンクリーン株式会社 多摩西ブロック長の窪田友樹(ともき)さんです。

あかしさんが窪田さんに名付けたニックネームは“入浴王子”。
介護福祉士の窪田さんは、「訪問入浴」サービスを運営する5つの営業所を束ね、一昨年、全国展開する同社で売上日本一になりました。そんな窪田さんのお話は、競争や奪い合いといった盲目的な営業行動とは全く異なり、お客様の『人生最期のお風呂』に真摯に向き合い、“人間の尊厳”をとても大切にして仕事をされる心温まるものでした。
清々しさ漂う窪田さんは、様々な課題が起こる介護現場に立ちながら、小手先の解決策ではなく、人間同士の血の通った課題解決に立ち向かっておられます。

ふと気がつくと私は、“いつかどこかで会った誰か”と話をしているような、懐かしく不思議な感覚の中にいました。
(聞き手:昆野)

窪田友樹さん: お風呂って凄いんですよ!

――何が凄いんですか?

窪田友樹さん: 入社して12年間、ずっと私は訪問入浴を専門に仕事をして来ましたが、お風呂の力って凄いんですよ!例えば最近は、末期がんの方などが病院から自宅に戻られて、人生最期のお風呂に入りたいというご要望が増えています。
『最期のお風呂』とは、その名の通り亡くなる間際の入浴です。状態の思わしくないお客様が多いので、初対面で一度入浴された後、再度お会いすることはありません。そういう場面に立ち会う度に、私たちはご家族の想いに接しながら、とても大切でやりがいのある仕事をさせて頂いていると実感します。その時に見る光景は神聖なものです。

――そうでしたか、最期のお風呂って初めて聞きました。“仕事の尊さ”を感じます。

窪田友樹さん: まだまだ訪問入浴をご存知ない方も多いですからね。依頼を受け訪問した際でも、ご家族は事前にケアマネジャーから説明を受けてはいるのですが、浴槽や器具を運び込むとビックリされたり、入浴される方の健康状態に不安を感じる方もおられます。
ですから訪問する際は、必ず訪問診療医の指示を仰ぎ健康状態を確認して、医師の判断のもとで入浴していただきます。一般の方のほとんどは、まだ訪問入浴というサービスがあることを知らないと思います。そういう中で、最期のお風呂に入りたいという方やご家族が口コミで拡がっています。

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――病院では入浴させてくれないんですか?

窪田友樹さん: 病院は治療することが優先なので、リスクがあると入浴できないんです。

――そうなんですか。訪問入浴サービスを展開している企業は増えているんですか?

窪田友樹さん: 訪問入浴をしている会社は介護業界でも数が少なく、最期のお風呂の要望が増えても最初で最後の1回限りになることも多いので、契約の手間やリスクを考え受け付けない同業者もあると聞いています。サービスへの要望は増えているのに、人手不足も重なって対応できない会社が増えているのが実態です。
私自身は最初で最後のお風呂だからこそ、やりがいを感じています。初めてお会いした方の人生最期のお風呂に出会えることは凄いことであり、とても光栄なことだと思っています。
ですから私が管轄しているブロックでは、依頼を断ることは一切しません。

――会社の方針もそうなんですか?

窪田友樹さん:残念ながら、会社は働き方改革と併せ職員の負担軽減を考慮しなければならないので、事業所の中には全てのご要望にお応えできないところもあります。

――窪田さんの想いと現実にギャップがあるということですね・・・。

窪田友樹さん:会社としては職員の働き方、職員を守ることが当然必要なので。ただ、私はそれを許せなかったんです。最期のお風呂に入りたい方のお気持ちを思うと、絶対に断れるはずがないんです。会社の方針に反発しているだけでは何も始まらないし建設的ではないので、最後は「私の管轄では絶対に断りません。職員を増やして対応します」と言い切りました。

――いいですね!窪田さんの人間性から湧き出てくる“信念”を感じます。どのように職員を確保されているんですか?

窪田友樹さん: まず始めたのが、地元社会人サッカークラブ「アローレ八王子」とのスポンサー契約です。代表とお会いしてみると選手全員が働きながらサッカーをしていて、都心で働いていると練習に間に合わないとか、休日出勤で試合に出れないため困っている人が多いということでした。ナニナニ…世の中こんなミスマッチが起きているのかと、心躍るような気持ちになりました(笑)。だってそうですよね。職員が足りない介護現場と、働く場所がないスポーツ選手がすぐ隣り合わせにいるんですから。さらにフットサルの代表とお話しても同じような状況でした。
これはイケルな!私は二人の代表に、選手が練習と試合に出れるよう仕事のスケジュールを調整しますと伝え、当社職員として選手の受け入れを進めました。既に4名が当社の仲間に加わっていて、まだまだこれからも増える見込みです。

「介護×スポーツ」 アローレ八王子のNo18 林慶之キャプテン(右)とNo3 佐藤康二郎さん(左)

続々と当社スタッフの仲間入り!!

――面白い着眼点ですね!きっと他の業種でも参考になると思います。働き方が多様化しているのに、企業側の受け入れ態勢やルールが旧態依然のためミスマッチが生じているケースは多そうですね。

窪田友樹さん: 例えば、早朝に練習のあるスポーツ選手もいます。朝8時30分の出勤時刻を、9時に変更するだけで働ける人がいるんです。現状日本の会社は、人材を確保したいのに社内規程を変更することは難しいようです。ちょっとした工夫でたくさんの正社員雇用が生まれると思っています。

スポンサーを務める「アローレ八王子」を応援する当社スタッフ

――ルールを守ることは目的ではなく手段です。その点を勘違いしている人が多いと思うんですよ。ルールは主に秩序を守るための手段なので、柔軟に変えていかなければ適切な企業統治はできません。経営者が現場の声を聞いて、意思決定することが大切ですね。
そもそも論で言えば、目的が明確であればそれ以外は全て手段です。手段はその時々の最善策を講じればいい。よくあるのが手段の目的化や目的と手段の混同、あるいは個人の損得を優先させた勝手な判断などですね。

窪田友樹さん: 私のそもそもは、“お風呂に入ってもらいたい”その一点に尽きます。そもそもを見失わなければ、会社が求める数字も自ずと付いて来ます。お客様に心底喜んでいただくために一つひとつ真剣に取り組むことで口コミで拡がり、無駄な営業活動をすることなく仕事の依頼をいただけるようになります。ですから、そのための手段としての人材確保・育成が不可欠なんです。

――いいですね。誰かの役に立ちたい!それが仕事や生き方の“根っこ”ですよね。

窪田友樹さん: 介護ってそういうものだと思うんです。そう思えなきゃ仕事がつらくてしょうがないし面白くないと思うんです。“お客様のためにしてあげたい”、その気持ちがこの仕事の原点ですから。

――同じ仕事、同じ職場でもそう思えない人はいるでしょうね?

窪田友樹さん: いますね。ですから、みんなに仕事の楽しさを知ってもらいたいと思っていますが、楽しさを伝えるって難しいですね(苦笑)。お客様を自分の両親だと思って入浴してあげてほしいと言っていますが、なかなかうまく伝わらない職員もいます。自分の力不足です。
今新たな試みとして、通信教育の学校にアプローチをしています。そこには多様な生徒さん達が集まっていますが、中には、心に何らかのダメージを受けた子もいます。痛みを受けた子は、人の痛みもわかります。そんな考えからその学校の教員の方とも繋がりましたが、ここでもミスマッチがありました。なんと、実習先や働く場を探しているとのこと。早速、福祉過程の生徒に実習に来てもらったところ、その子は跳び抜けて優しい子で、無口ですがお客様やご家族にもちゃんとその優しさが伝わるんです。その生徒は繰り返し体験に来てくれ、今ではうちの職員として働いてくれています。

――そういう人を大切にする職場でありたいですね。窪田さんを突き動かしているものは何なんでしょうね?

窪田友樹さん: 元々私には、これをやりたい!というものがないんです。ただ決めたことはトコトンやります。だから介護じゃなくても、そうしていたと思います。
それに私には出世欲というものがありません。以前、今のポストを二度打診された時も、二度とも断りました(笑)。その後しょうがなくて嫌々やってみたら、これが楽しくてしょうがないんです(大笑)。

――そういう真っ直ぐな窪田さんと部下には、意識の乖離が生じてしまうかも知れませんね。みんなが窪田さんのように前を向いている人ばかりではないので。マネジメントにあたって、どういう点に気をつけておられますか?

窪田友樹さん:んーん(暫し無言)。 実は、今一番アタマを悩ませていることがその点なんですよ。私が感じてきた“感動・やりがい・楽しさ”を全て伝え、部下一人ひとりの響くところを探し当てて行くしかないのかなと思っています。

職員と仕事後のフットサル!!

――部下は何人ですか?

窪田友樹さん: 直属が15名で、ブロック全体では70名程です。

毎年恒例!うかい鳥山での「忘年会」。職員が増えていきます!

――多いですね。一つ気になることは、窪田さんの取り組み姿勢や実績、お客様との信頼醸成の方法などが社内で適正に評価され、ロールモデルとして全国に水平展開する方針を会社が打ち出しているのかどうかということです。
もしロールモデルに位置づけているのであれば、今窪田さんと一緒に仕事をしている人たちは、それを誇りに思えるはずです。窪田さんのチームには確信と連帯感が生まれて来ると思うんですよ。

窪田友樹さん: ロールモデルとしての位置づけは、ないですね…。そこは自分の発信力の無さにも問題があると思っています。まだまだ道半ばですので、必ず成功させて全国的に展開しても恥ずかしくないようなモデルケースにしていきたいと思っています。

――元々窪田さんは会社員の枠にハマる気質ではないし(笑)、利己的な考えで仕事をされている訳ではないので、自分の考えに違和感がなければ躊躇なく進言すべきでしょうね。それが会社や仕事を通して社会のために繋がることであれば、迷うことは何一つありませんから(笑)。
ところで、何がきっかけでこの仕事を選んだんですか?

窪田友樹さん: きっかけはですね…、言うのが申し訳ないんですが…(苦笑)。

――申し訳ない??どういうことですか?

窪田友樹さん: 私は体育学部出身で、中学・高校の体育教員の資格を取得して教師になろうと思ったんですが、就職が決まりませんでした。やむを得ず半年間フリーターをして、それから正社員になろうと就活を始めました。当時は就職氷河期と言われた時代で、なかなか就職先が決まらなかったのでハローワークに行ったんです。元々やりたい仕事がある訳ではない私は、アイウエオ順に探そう!と思い、“ア”の付く会社名から見たところ、一番初めに「アサヒサンクリーン株式会社」があったので…。

――ちょっと待ってぇー!!(二人大笑)

窪田友樹さん: それだけなんです。

――凄いですね、いい乗りしてますね!

窪田友樹さん:何の会社かな?自宅から近いからいいな、という感じで面接して入社です。 そういう訳で、介護なんて全く知らずにこの世界に飛び込んだんです。でもこんな申し訳ない話を、敢えて言うようにしているんですよ。
何故かと言うと、介護の仕事って介護やりたいから勉強する人は少ないし、関わるまでは抵抗感を感じている人も多いんです。実際今いる従業員も何となくとか、働き口がないからという理由で携わっている人が多くいます。
だから介護の仕事を全く知らずに始めた私が、今それにハマって楽しくてしょうがないことをいろんな人に伝えるために、私のこの世界への入り方について隠さずしっかりとお話ししていきたいと思っています。

――何がそんなに楽しいんですか?

窪田友樹さん: お風呂のサービスはとにかく喜ばれるんですよ!得な仕事なんです(笑)。目の前にいる人の喜ぶ顔を見れるし、ハッキリと表情が変わっていくのがわかります。それが一番の喜びです。そして最期のお風呂は、私の人生を変えてくれました。
ちょっと考えてみて下さい。みなさんは、死ぬまで何回お風呂に入りますか?数えられないほど・・・何万回ですよね。思い返せば、お風呂にはいろいろな思い出があると思います。子どもの頃、両親と入ったお風呂。そうだ、運動した後のお風呂は格別ですよね。それに、いろんな温泉にも行ったな。ついには自分が親となり、子どもと入るお風呂。お風呂にはたくさんの思い出が詰まっています。
そんなお風呂・・・人生最期のお風呂。人生の総決算のお風呂。様々な人生を歩んで来られた大先輩方の最期のお風呂をお手伝いできる、こんな素晴らしい仕事はないじゃないですか。中途半端な気持ちでは出来ない、そう強く思いました。ご家族も見守られた中で最期のお風呂を迎えます。最高のお風呂にしたい。そんなお手伝いが出来ることを私は誇りに思っています。
もう一つは地域の人たちとの繋がりが嬉しいですね。入浴の際のチームワークもそうですし、特に八王子というところは初対面でも顔見知りのような気持ちにさせてくれる温かみが残っている街なんです。

「入浴王子」のロゴ!!八王子の商店店主が作成してくれました!!

――現場では力仕事もあるので、腰を痛めたりする人も多いのでは?AIや機械化も進むでしょうね。

窪田友樹さん: 今後ますますマッスル・スーツの利用は拡がると思います。当社が東京理科大や地元企業と共同で研究しているものが、最近ダウンタウンの浜ちゃんがCMで紹介しているものです。

――あー見た見た、「マッスル・スーツを付けた浜ちゃんは、いい人になったあ♪♪」というCMですね?

窪田友樹さん: そうそう(二人大笑)。

――入社された12年前と、現場の状況は変りましたか?

窪田友樹さん:以前は、多くの訪問診療の医師はリスクがあるからお風呂は止めておいた方がいいと言っていましたが、今は在宅介護が主流になり医師自らがご家族に入浴を勧めることもあります。やはり医師の影響力は大きいので、私たちも医師との連携を大切にしています。

――病院から自宅に戻られた方が、安心して終末期を過ごしていただけるといいですね。

窪田友樹さん: 科学的根拠がないのであまり大きな声では言えないのですが、実は病院から自宅に戻った方の多くが元気になるんです。不思議です。全く根拠はないのですが、信じられないほど回復します(笑)。
病院では一切飲食できなかったのに、自宅では美味しそうにパクパク食べているんです。初めはビックリしたんですが、そういうことがあまりにも多いので見慣れてしまいました(二人大笑)。さらにお風呂に入ると表情が明るくなり、そこからさらに長生きする方も多いんです。住み慣れた我が家の力は、やはり大きいです。

――んーん、考えさせられますね。

窪田友樹さん: 場合によりますが、訪問診療の医師は患者さんがそれまで飲んでいた大量の薬を、「こんなつらいことはやめよう」と最小限に整理するんです。例えば塩分を摂りたい時は、好きなものを食べた方がいいね!と言ってマックのフライドポテトを薦めたりするケースもあります。

――えー、「早く言ってよー」って感じですね(笑)。
このような状況の中で、今窪田さんが最も力を入れていることは何ですか?

窪田友樹さん: いろいろな場で広報活動をすることです。私が一番嫌なことは、訪問入浴に行ってお風呂に入ってもらう時に「こんなサービスがあったんだ」「もっと早く頼みたかった」と言われることなんです。未だにこれを知らずにお風呂に入れない人がたくさんおられると思うと悔しいし、とにかく早く知ってほしいんです。

地域の勉強会にて「訪問入浴」の啓発活動!!

――中長期的にやりたいことは何ですか?

窪田友樹さん: 人材確保です。断らない体制づくりをしていかなければなりません。同業社の中には、訪問入浴から撤退し始めている会社が出ています。行き場を失ったお客様も含め、これからどんどん仕事は増え続けていきます。
一方で、人材を確保するためには介護関係者の社会的な地位向上を図らなければなりません。子どもたちが野球選手やパイロットを夢見るように、介護をやりたい!と思えるような世の中にしていかなければ、永遠に人手不足は続きます。
ただ今の私は、目の前にあることに全力投球しているだけで、先のことまであまり考えてはいません。

小学校での介護授業に参加。子ども達、とても熱心です!

――それでいいのでは。“今を生きる”ということと、未来は考えるものではなく“心豊かにイメージするもの”じゃないかと思います。未来はどうなるのかの問いに対して、これまで私が出会った本には「自由意思にもとづく」と書いてありました。不確実な未来を形づくっていくものは、私たちの意思だということです。

窪田友樹さん: 令和元年もいろいろなことがあり、気持ちを強くもたなければいけないなと自分を鼓舞して新年を迎えたところです。

――自然体でいきましょう!心の声が聞こえる状態で生きていれば大丈夫です(笑)。
今日は久しぶりに仕事の現場についてお話しできて楽しかったです。ありがとうございました!

当日のインタビューは八王子の沖縄料理店「和」で行ないました。二人でそこに車で向かう途中、何故か私は自分の会社員時代の話をしていました。会社員でありながら会社員ではない、一言でいえば会社員である前に“私”を生きてきたということを話していました。
インタビューが始まると間もなく、お互いが「似てますねぇ」と言って笑っていました。やっぱりそうかと、可笑しくなりました。

最近のアスリートは、口々に「楽しむ」という言葉を公然と使うようになりました。スポーツの世界は意識改革が進んでいるなと思いますが、仕事の現場では相変わらず会社への帰属意識のもとで、社会を良くすることとは別の価値観で仕事をしている会社員が多いと思います。
窪田さんはアスリートそのものです。個を極めつつ、人の心を見失うことなく仕事に向き合っておられるところに凄さを感じます。これからも仕事の壁は立ちはだかるかも知れませんが、それは志が高い故に起きる壁であり、窪田さんの使命と言えるものなのでしょう。

仕事は、尊いもの。ある日私に飛び込んで来たメッセージです。その意味することが、窪田さんとのお話しでまた一つわかってきたように感じられます。

そんな窪田さんは、“仕事で社会を心豊かにする”アスリートでした。

■窪田友樹さんのプロフィール

1984年東京都杉並区生まれ。国立市在住。国士舘大学 体育学部体育学科卒業。
12年前に就職して初めて八王子市と関わりを持ち、今ではどっぷり八王子にハマっています。
「訪問入浴の啓発活動」「介護とスポーツの共闘」「魅力ある八王子市の広報活動」など、目の前にあることに全力で取り組んでいきます。
インスタに日々の活動を載せていますので、是非フォローお願いします。
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