比嘉 香里さんへのリレーインタビュー

アントイレプランナー代表 白倉正子さんからのリレーインタビューは、NPO法人コドモノトナリ副理事長の比嘉香里(ひが かおり)さんです。

コドモノトナリは、「あそばせ家 学童保育 APどろんここぶた」という認可外保育室と学童保育所を運営する団体です。

専業主婦だったある日、比嘉さんは毎日公園で会うママ友が、自宅で託児所を開いていることを知りました。そしてその託児所に手伝いに行くようになった頃に、運よく庭付き戸建ての家が近所に空いていたので、その家を勢いで借りて保育ルームをオープンしたといいます。初めはご自身の幼いお子さんも一緒に保育をしていました。
小さいお子さんをもつ専業主婦二人が、まだ保育士の資格ももたない状況で、何を思い、どのように保育を始めたのでしょう。
その後何の知識もなく始めたお二人は、周りのママ友に助けられながらNPO法人を立ち上げたといいます。こういった屈託のないお二人だからこそ、今も多くの人たちから信頼され続けているのでしょう。

昨今、子どもたちを取り巻く環境はどんどん変化しています。
最近私の周りでも、ひとり親家庭の方や、学校に行かなくなったお子さんが増えています。
暮らしが厳しく、子育てが難しく感じる状況の中で、人間として、大人として、親として、子どもたちにとって何が大切かという、原点に立ち返ることでしか見えてこないことが多くあると感じます。

二人のお子さんを育てながら、保育室と学童保育所を運営し、さらに通信制高校の副学園長も務める比嘉さんの人間観に、是非触れてみてください。
きっと、未来から光が差し込んでくると思います。
(聞き手:昆野 直樹)


――何をきっかけに保育を始められたんですか?

比嘉 香里さん:中学か高校生の頃からずっと、子どもと関わりのある仕事をしたいなと思っていたんです。ただ自分が保育に携わり運営することになるとは、思ってもいませんでした。
何となく保育をしたいなと思い始めたのは、結婚して二人目の子どもが生まれ、幼稚園に通わせるようになった頃でした。
その頃私は、仕事を辞めて専業主婦をしていましたが、やっぱり子どもに関わる仕事がしたい、私が通った釜石の学童クラブのような、思いっきり遊べる場所をつくりたいという気持ちがムクムクと起き上がってきたんです。実は、私の通った学童クラブが今の「どろんここぶた」の原点なんです。
そんな折、公園ママ友の片岡さんからチャイルドマインダー(英国NCMA認定)という資格を取得すれば保育の仕事に携われると聞いて、それなら「一緒に保育園をつくりましょう!」ということになり、私も資格を取って始めることになったんです。

――比嘉さんは、NPO法人コドモノトナリの副理事長をされていますが、その時一緒に始めたのが現理事長の片岡さんですね?

比嘉 香里さん:そうです。もともと片岡さんが自宅の一室で託児室を開いていて、そのルーム名が「どろんここぶた」だったので名付け親の片岡さんが理事長になりました。

2018年NPO法人を設立した当時の比嘉さん
最初の「どろんここぶた」

――専業主婦二人で、保育室を設立して運営し始めたというのも凄いことですね。結婚される前はどういう仕事をされていたんですか?

比嘉 香里さん:会社に勤めて経理をしていました。ですから保育とはまったく違う仕事でした。
ただ何となく、二人で立ち上げて運営して行けるんじゃないかなと思ったんですよね。

――起業家マインドがそうさせたのでしょうか?

比嘉 香里さん:多分そうだと思います。その原点は、やはり当時の多摩大学の風土で培われたマインドなのだと思います。
白倉さんも私も4期生で、当時の多摩大学は変わった人たちが全国からいっぱい集まっていました。入学した時はちょっとびっくりしましたね、世の中にこんな人たちがいるのかと(二人大笑)。
今と違って経営情報学部しかなく、多くの学生がそこで起業家マインドを培っていたのだと思います。

――現在の学長は寺島実郎さんなので、今でも独自の理念を掲げ実践しているのでしょう。比嘉さんの身体の中には、今も血液のようにマインドが息づいているように感じます。それも凄いことですね!
多くの人は就職することで収入を得ようとし、リスクのある起業の道を選択しようとはしませんからね。

多摩大学時代に日経ビジネスに掲載された写真(一番右が比嘉さん)

比嘉 香里さん:安定した生活も大事ですが、やりたいことは我慢しない方がいいです。多くの大人は毎日しんどそうな顔をして仕事をしています。これでは子どもたちが、大人になりたくないと思うのもムリないですね(笑)。

――学童保育の名前が、「あそばせ家 学童保育 APどろんここぶた」で、“ここはみんなの秘密基地!ひとりひとりの心の根っこを育てます”とあります。サイコーですね!
秘密基地って、大人もそそられるんですよね(大笑)。

比嘉 香里さん:大人ももっと人生を楽しんだ方がいいですね。
子どもたちと接していてまず初めに想うことは、「人は一人では生きていけない」ということです。
子どもたちの“生きる力”というのは、様々な人との関わりの中で育まれていきます。お互いの違いを楽しみながら、その子らしく成長していけるように一人ひとりのあるがままを受け止め、寄り添う保育を目指しています。
「みんな、そのままでいいよ」って受け入れることが子どもたちの自信につながり、自分で考えて自分の責任で決めることは自立につながります。
自分で幸せを切り開いていけるように育ってほしいと思っています。
そのためには、子どもたち”一人ひとりの時間”に合わせて過ごすことがとっても大切です。

ここで、「APどろんここぶた」の紹介動画をご覧ください。
子どもたちのキラキラした目や生き生きとした様子が眩しいくらいです!

「APどろんここぶた」紹介動画
BGMはキッカケ学園の学園長が高校生の時に作った青春ソング
その時のベースが比嘉さんの旦那さんらしい(笑)

――“一人ひとりの時間”に合わせるって凄いですね!今の世の中は、何かにつけて効率を優先させています。それによって大人も子どもも忙しなく、時間にも気持ちにも余裕のもてない生活を送っています。
みんな自分がいつまで生きるかわからないのに、みんなが同じくらい同じように生きるという前提で、効率や生産性を高めようと生きているように感じます。いつまで生きるかわからないのに、人生の悦びや醍醐味を味わう機会を逃しています。
みんな、どうかしているとしか思えないですね(大笑)。
学童保育では、音楽との触れ合いも大切にしているようですね。

比嘉 香里さん:譜面のない音楽の世界に触れて感じて楽しもうがモットーの、“FeelGood!”という音楽教室を開いています。
プロの方と1対1のきめ細かい指導と、楽しむことに特化したレッスンを受けられます。
ドラムやギターも自由に使える本格的なスタジオもオープンして、最高の環境なんですよ。自分のCDも作れちゃいます。

――比嘉さんも音楽をされているんですか?

比嘉 香里さん:私はまったく楽器を弾くこともできないんです(笑)。実は主人が長いこと音楽をやっていて知り合った音楽仲間と一緒に、ユニークな音楽の楽しみ方を取り入れています。
音楽っていいですね。何年経っても、誰とでも一緒にやれるって凄いです!羨ましいですね。

――ところでコロナの影響は大きかったですか?

比嘉 香里さん:もうたいへんでしたね。家賃はおろかお給料を出すことも難しくなってしまい、もうダメなのかなあと思いました。ホント厳しい状況でした。
行き詰ってしまった時に、知人の勧めでクラウドファンディングをやってみたんです。100万円を目標にスタートしたんですが、目標に到達するかどうかまったくわかりませんでした。
ところが一週間も経たないうちに目標を達成してしまい、本当にビックリしました。みんなで泣いて喜び合いました(笑)。
ありがたいなあと思って、どういう人が寄付をしてくださったのかなと名前を見てみると、「どろんここぶた」の卒業生たちやその親御さんが寄付をしてくださっていました。
みなさんが「ここを潰すわけにはいかない」と言って、声を掛け合って寄付してくださったんです。
名前を見た時は、感激して涙ぼろぼろでした。
こんなことが起きるんだ!続けてきて良かった!と、つくづく思いました。ホント言葉にならなかったです。

忍者バージョンでハンターをしていて全力で逃走中

――やってきてよかったですね!

比嘉 香里さん:本当に嬉しかったです。もう限界というところまできて、卒業した子どもたちにも助けてもらえるなんて、これ以上幸せなことはないと思いました。
子どもたちと関わることは、その子たちと生涯に渡って関わっていくことなんだなあと、しみじみ思いましたね。

――他の職業ではあまり感じることのできない悦びですね。素晴らしいです!
コロナで制約が多い中、子どもたちはどんな様子でしたか?

比嘉 香里さん:いろいろと予期せぬことが起きました。
マスクをしている子が、マスクをしていない子に「何でマスクをしないんだよ!」って強く言ったりして、少し殺伐とした雰囲気になったこともあります。仲のいい子同士だったのに、そういう些細なことで攻撃的になっていました。
大人たちの心配やピリピリ感が、子どもたちにも伝わっていたんだと思います。

スタッフミーティング(左から2番目が比嘉さん)

――子どもは敏感ですね。

比嘉 香里さん:子どもたちと接する大人には、大きな責任があります。私たち大人がつまらなそうな顔をしていては、子どもたちは大人になりたいとは思えなくなりますね(笑)。
普段、無意識に出てしまう大人の態度や表情が、子どもたちに大きな影響を与えてしまいます。

――罪ですよね、大人(笑)!大人につまらない顔ばかり見せられちゃ、そりゃあ子どもたちも辛いですからね。そういえば最近私の周りでも、学校に行っていない子が増えているように感じます。私の感覚では、社会も学校も真ともではないので、学校に行かなくなる子は真ともだと思っています。
違いますかね(笑)?

比嘉 香里さん:そうですよねー(笑)。子どもが学校に行きたくないと言っているという、親御さんからの相談が多くなりました。
まずは、無理に行かせないようにしてほしいとお話ししています。そういう時は一緒に遊んだりおしゃべりしながら、お子さんの気持ちに寄り添うことがとても大切です。
子どもたちの多くは、学校の敷地に入ることが辛いとか、決められた枠の中で過ごすのが苦しいという理由で行けなくなっています。
親は無理やり学校に行かせようとしてしまいがちですが、できるだけ他の子どもたちと比べたり普通を押しつけずに、お子さんが安心して過ごせる環境を確保してあげてほしいです。自分が自分らしくいられる居場所の中で好きなことを見つけて、自分の強みにしていくことが未来へ向かう力につながります。

よりどこ遠足

実は、私の次女も中学から学校に行かなくなり、私の育て方に問題があったのかとかいろいろと考え罪悪感を抱いてしまいました。
娘自身も学校に行かないことを良くないことだと思ってしまい、娘なりに罪悪感をもっていたようです。

――どうしても罪悪感をもったり自暴自棄に陥ったりしてしまいがちですが、自分を追い込まないようにしてほしいです。だって何も悪いことはしていないじゃないですか。
社会や学校のせいにするのではなく、世の中の不合理や理不尽さなどの歪があって、上手く対応するのが苦手なだけなのではないですか。
世の中のルールや慣習、人間関係などの諸々が正しいという前提に立てば罪悪感を抱いてしまうかもしれませんが、正しいわけでも真ともなわけでもないじゃないですか(笑)。

比嘉 香里さん:今は私も、親御さんたちが罪悪感を抱かないように気をつけて接しています。
今「どろんここぶた」には、不登校のお子さんも通っています。学校に行っていないのに学童保育に通っていいものかと迷っている親御さんもいるので、安心して通えるようにしっかりと話し合って進めています。

――それぞれ子どもたちには、学校に行かない理由がありますね。そういう子どもたちの中には、集中力が半端じゃなかったり、飛び抜けて記憶力が凄かったり、何か一つのことに秀でている子が多くいます。未来を想う時、そういう才能を生かさないともったいないなと感じます。
人類にとっての損失です!
われわれ凡人の思い込みや“ものさし”で良否を決めつけていては、これからも人類は退化し続けるでしょう(笑)。

比嘉 香里さん:とっても凄い能力をもった子が多いです。画一的な教育にはめ込むことを避け、一人ひとりが個性を伸ばし能力を発揮できるようにしていきたいです。
次女も通信制の学校に通いましたが、段々とそういう許容力のある学校が増えてきています。

――娘さんはお元気ですか?

比嘉 香里さん:はい、おかげさまで元気です。ギターがかなり上手くなりました。今年3月に通信制の高校を卒業して、今自分の進む道を再確認しようとしています。
自分がどんな仕事をしたいのかまだわからないので、1年間ゆっくりと考えてみるようです(笑)。

――いいですね!私もどんな職業に就きたいかを考えていた時期がありましたが、わかりませんでした。今でもそうだと思います。
自分がやりたいこと好きなことが、直接職業に結び付くかどうかわかりませんからね。逆に職業に当てはめずにやりたいことをしようとする人が増えれば、新たなビジネスが生まれ、社会は活性化していくでしょう。
人生の醍醐味を味わえる人が増えるって、社会にとってとても大切で有意義なことですね。

比嘉 香里さん:ただ次女は、「ビンボーはイヤだ!」って言っていました(二人大笑)。

――ビンボー(笑)? 貧困という言い方もそうですが、自分でそう思えなければビンボーではないですから。他人が決めることでもないし。

比嘉 香里さん:心が豊かであればいいですね。そうありたいと私は思っています。

――心の豊かさが大切ですね!
キッカケ学園という、何とも面白そうな学校の副学園長もされていますね。

比嘉 香里さん:今年の4月開校予定で進めていましたが、手続きを始めたのが昨年末だったので遅れています。現在生徒を募集中で7月頃から本格的にスタートする予定です。
他の誰とも違う自分だけの個性をどんどん磨きましょう!がモットーです。キッカケ学園は、そのためのキッカケの場です(笑)。

――文字通り、そのまんまの学校ですね(二人大笑)!

比嘉 香里さん:読めばわかるという学校名です(笑)。
一人ひとりが輝けるステージ。好きなことや夢中になれるものに出会うキッカケ探しは、感じたままの気持ち、自分の心にしっかりフォーカスすることが大切です。
他の人との違いを楽しみながら個性をどんどん磨いて、最高の青春時間を過ごしてほしいなあと思っています。

キッカケ学園高等部 生徒募集中!

――いいですねえー。TEAM社会企業家(シャカ)では、今年3月に『シャカ道場』をスタートしました。理屈抜きに「子ども心・遊び心を取り戻しましょう!」と呼び掛けています。
さらに、それぞれが命輝く生業と出会い、自分のやりたいビジネスを軌道に乗せていくシャカを増やしていきたいと思っています。

比嘉 香里さん:キッカケ学園と相性が良さそうですね。学びは遊びの中にこそあります!

――そうなんです(二人大笑)!是非、キッカケ学園にお伺いしてお話ししてみたいと思っています。

比嘉 香里さん:是非、是非(大笑)!
実は昨年末にコドモノトナリが、日本財団から「子ども第三の居場所事業コミュニティモデル」に採択されました。神奈川県内の1号店です!
「どろんここぶた」は2階建て建物の2階にありますが、1階にキッカケ学園やカフェがありその一部が、地域の子どもたちが安心して過ごせる居場所、地域の交流の場になったんです。
子ども食堂では小中学生に定食を無償で提供していて、併設したスタジオでは楽器の演奏やカラオケも無料なんですよ(笑)。
ワクワクできる場所、みんなの歌声を宇宙まで!という想いを込めて『ミンナノヒミツキチ 奏(かなで)ロケット』と名付けました。

――ものすごーく大きな秘密基地をイメージしちゃいます。夢が膨らみっぱなしですね(笑)!
今日は、子どもたちの生のお話しをお聞きできて、楽しく考えさせられました。
ありがとうございました。


普段から多くの子どもたちと接し、子どもたちの未来に想いを馳せ仕事をしている人の表情や声、感性はひと味違うなあと感じます。

淀みがない。
そんな感じです。

多くの人は自分や家族の将来を考え、不安を抱き、迷い生きています。裏返してみると、自分の都合の良し悪しを優先し考えているから不安を抱いてしまうということです。
比嘉さんは、自分の都合などそっちのけで生きています。
きっと、何かに後押しをされて生きている方なんだろうなあ。

私たちは、そういう人と接した時に、”揺るぎないもの”を感じます。自我が薄れている人ほど、内面にあるエネルギーを強く感じます。
確固たる何かというよりも、漠然とした確信のようなものなのかもしれません。

未来を想う時、私たちは現実から少し遠い世界を想い浮かべます。それに対して、子どもたちを想う時、私たちは実感のある切実な世界を想い描くことができます。

人は実感を求めます。
子どもたちという遠くない未来を想うことで、私たちは未来を実感し、そして「今私はどう在るか」に気づくでしょう。

比嘉さんは、私たちに未来からのメッセージを届けてくれる人でした。


■比嘉 香里さんのプロフィール

1973年生まれ。岩手県釜石市出身
多摩大学経営情報学部卒業
NPO法人コドモノトナリ 副理事
学童保育・保育ルームどろんここぶた 副園長
通信制高校サポート校キッカケ学園 副学園長
子ども第三の居場所「ミンナノヒミツキチ奏ロケット」運営
こどもみらいフェスティバル実行委員

APどろんここぶた
キッカケ学園高等部