我らが演劇の師匠、リ―・ストラスバーグ氏は、芸術家は宇宙と自分との関係をいつも意識せよ、風を、雪を、雨を、太陽光を丁寧に味わえといいます。私たち一人ひとりの存在は小宇宙で、普段は意識していなくても、あらゆるものを創造し、育もうとする宇宙の意思と呼応して存在していることを想え、というのです。
井上ひさし先生の戯曲「マンザナ」を今、甲府で稽古をしています。このなかで、大戦中のアメリカで捕虜収容所にとらえられた日系人女性たちが、大統領に手紙を書いたために弾圧されそうになる仲間を助けようとするシーンがあります。その手紙とは、今、ルーズベルト大統領がやっていることは、敵方のヒットラーがやっていることとまったく同じではないか、というものです。独裁者を成敗するために、もっとすごい独裁者になろうとするアメリカに抗議したのです。仲間を助けようとする女性たちは、自分たちも連行してくれと所長に訴えます。初めて思いのたけを訴え、部屋に戻った彼女たちは「自分を洗濯した気分」「体が軽くなった」「ほんとは何がしたかったか分かった」と今までにない新しい自分を不思議がり、喜びます。それは、自分という宇宙の内なる永遠、宇宙意識のかけらを、外に顕したことからくる喜びです。
狂気に走ろうとする世界で、正気を保つ方法は「心の中にあるものを素直に声にして出す」こと。だから民主主義の憲法を無視し、独裁者の方向にひた走るルーズベルト大統領に毎日のように手紙を書かずにはいられない「マンザナ」の主人公ソフィア。ソフィアを助けようとするとき4人の女性たちは自分の不運への嘆き、不満を忘れ、おかれた場所ですがすがしく生きはじめます。
実は最近、素直に声にして出す美しい人びとの笑顔を見ました。経済産業省の若手事務次官の方々です。皆で何度も集まっては話し合いを重ね、経済格差をなくすなどの、様々な社会の問題解決のための政策の提言をしたというのです。そのニュースを見ていて若手次官たちの表情に驚きました。この笑顔はなんだろうと思いました。わたしのお役人のイメージは、笑顔筋が萎えた無表情顔です。彼らの表情はそれとはまったく違い、キラキラしていました。
もうおひとかた見つけました。友人の勧めで、世田谷文学館に電気で動くからくり人形の展覧会に行った時です。ムットーニこと、作家の武藤さんです。自ら、目の前で説明してくださった作品の一つは圧巻でした。オーケストラの演奏が終わると劇場の床がゆっくり上がり、土星のような形の惑星が星空とともに登場します。忘れていても、どんな時も私たちの足元を、永遠なる宇宙が支えている!
人間が本当に心から喜ぶときとは、宇宙と相似形である私たち一人ひとりの心の内側から、何か新しい「想い」や「案」を取り出し、それを他者と分かち合い、切磋琢磨し、自分の周りの世界を、破壊ではなく創造という、宇宙の意思に添うように改善する行動をするときなのだと確信しました。(「マンザナ」は7月2日、甲府駅前の図書館二階、多目的ホールにて公演)