東京輸出株式会社代表の坂本貴男さんからのリレーインタビューは、クリーンクリエイターズラボ代表の栢森 聡さんです。
「科学のちからで。科学の視点で」
栢森さんとの会話には、科学やサイエンスという言葉がとても多く登場します。
イメージキャラクターは白衣姿で、ロゴマークはフラスコです。
お堅い方なんだろうな?
そんな先入観を抱きながら、オンラインでのインタビューが始まりました。
話し始めると、顔は穏やかで声は柔和、話し方も優しいので、少しびっくりしました。そして、とっても聞き上手なので、いつのまにか私ばかりが話しているという逆転現象が起きていることに気づき、慌てて話題を軌道に戻したりしていました(笑)。
「ああ、それはサイエンスのロマンに触れたということですね」
栢森さんとお話ししていると、こんな言葉が返ってきます。
普段私たちがあまり意識することのない科学の世界に、いつも栢森さんは立っていて、科学の世界から私たちを見守ってくれているような気がしてきます。(聞き手:昆野)
――HPを拝見すると、白衣を着た研究者が現れますね。栢森さんのイメージキャラクターですか?
栢森 聡さん: そうです。私が執筆をしている、清掃の業界誌のデザイナーが私のアバターキャラクターを描いてくれました。
とっても気に入っていて、いつも一緒に記事やセミナーに登場して、和ませてくれます(笑)。


――HP全体に、いい雰囲気を醸し出していますね。
2年程前に独立をされて、クリーンクリエイターズラボを立ち上げられていますが、その前はずっと研究・開発の仕事をされていたんですか?
栢森 聡さん:20年ほど勤めた会社ではずっと研究・開発をしていましたが、次に入った外資系の会社ではマーケティングも兼務していました。企業における研究者歴は35年になります。
――マーケティングですか・・・?私の周りにもナノテクの研究者や大学教授がいますが、研究者にとってマーケティングは別世界のようですが(笑)。
栢森 聡さん:経済学者のフィリップ・コトラーに傾倒して、飛び込んでしまいました。ずっと研究ばかりしていたので、まったく違うことをしたかったんです。でも、英語には苦労しました(笑)。

(左から3人目が自分)
数年で同期は全員いなくなり、
外資系企業っぽさをその後痛感することになります。
――結構、勇気が要りましたね!
栢森 聡さん:そうですね、でも転職してみて良かったと思っています。自分が研究・開発をした商品が、世の中でどのように役立っているのか知りたかったんです。ずっとモヤモヤしていましたから(笑)。
その頃息子たちが小学生だったので、「オヤジが研究してつくっているものが、このように社会に役立っているんだ」と見せることができたらいいな。そんなことを考えながら、飛び出しました。
――独立されたのは何年ですか?
栢森 聡さん:2020年です。その半年前に外資系の会社を定年退職したので、もう一度チャレンジしたいと思い独立しました!
――研究者というのは慎重な人が多そうですが、栢森さんは結構やっちゃいますね(笑)。独立される時、奥さんは賛成されましたか?
栢森 聡さん:独立した時は後押しをしてくれましたが、その後しばらくはネガティブになり、不安は尽きなかったようです。開業日が関東で新型コロナウイルスの緊急事態宣言発令の日でしたので、先行きに不安を感じたのは当然ですね。
昆野さんが独立される時、奥さんはどうでしたか?
――私は会社を辞めて起業することは伝えましたが、それ以外は伝えなかったのでしばらくは平穏に過ごしていました(大笑)。私自身は、何が起きるのかを楽しみにしながら生きているので大丈夫なんですが、妻は真逆ですからね(笑)。
起業して1年後に、先ほどお話ししたナノテクの研究者と出会いました。生涯、研究だけをしていたいというベンチャーの創業者と社員でした。ご縁があって、その研究・開発ベンチャーの事業化のコンサルティングをすることになり、次世代太陽電池と言われていた有機太陽電池の事業化に取り組みました。
栢森 聡さん:その分野に精通されているんですか?
――まったく知りません。目的は事業化ですから、事業化の道筋を描いて見通しを立てられるようにするとこが肝心なことです。いろいろやりましたね、楽しかったです(笑)!
何だか私ばかりがしゃべっているような気がしますね。栢森さんは聞き上手ですね(二人大笑)!
栢森 聡さん:興味深い人生だなあと思って聞き入っていました。
――数年前に「人生、夢だらけ」という、のんちゃんのポスターがありましたが、そんな感じで生きていればいいんじゃないかと思います(笑)。
ところで独立された理由を拝見すると、「企業への貢献を終え、次は広く社会へ直接貢献したいとの想いから、2020年4月に本事業を開業しました」とあります。
栢森 聡さん:メーカーにいながら開発をしていると、自社の商品を売り込むことになりますが、他社商品の良いところも含め、お客様にとって最適なものは何かという、言わばメーカーの立ち位置から離れた視点でお話ができる立場になりたいと思いました。
――コンサルタントは、中立性が第一義ですからね。HPは開業時に制作されたんですか?
栢森 聡さん:いえ、開業してから完成するまで1年以上掛かりました。
――しっかりした内容で、コンセプトや考えなど伝えたいことが明確ですね。
栢森 聡さん:ありがとうございます。自分一人でつくろうと思ったら、ここまで洗練した内容を発信することはできなかったと思います。
――「科学のちからで暮らしにキレイを!」というメッセージも、かなり揉まないと出てこないでしょうね。

栢森 聡さん:経営理念を大切にし、CSRを考えながら事業計画を作成してビジネスコンテストで発表しました。何度も内容を揉んで揉まれてやっと、やりたいことをコンセプトとして明確に打ち出すことができました。
――科学に根ざして、すべてが展開されています。「科学的視点に立って基礎理論から解説し提案する。その繰り返しによって清掃に携わる人の専門性が高まり、清掃業者の価値が高まる。そこに貢献できることが至上の喜び」だと言われています。言葉が研ぎ澄まされていますね。
栢森 聡さん:おかげさまで開業以来、ずっとその視点でビジネスを続けることができていると思います。お客様から信頼される原点は、科学の力でお客様の先のお客様であるエンドユーザーに対して、どのように分かりやすく説明できるか。その一点に尽きると思っています。
とてもありがたいことですが、お客様から高く評価していただいているのではないかと思っています。
――エンドユーザーの目の前で実際の商品を使って見せることで、かなり説得力が増すでしょうね。
栢森 聡さん:コロナ対策セミナーなどをやっていますが、対面でやって見せるとみなさん良く理解をしてくれます。オンラインセミナーでも写真を多用し、ビフォー・アフターを比べて示すことで理解が深まります。さらにウィルスってどういうものか、細菌とは違うのか。カビはどっちなんだとか、いろんな話に発展していきます。

――ウィルスは生物ではないようですね。
栢森 聡さん:そうですね。ウィルス自体では生き続けられない、動物の細胞に寄生しないと生きていけません。
――素人のイメージでは、生きているから変異するという印象をもちますが。
栢森 聡さん:これは奥が深いですね(笑)。それは、生きるカタチを問いかけているということです。人間においても、いろんな生きるカタチがあります。
ウィルスは、増殖する時にとても多くのコピーをつくりますが、その時にコピーミスを起こします。それが変異だと言われています。ですから感染する人が増えるほど、変異する確率が高まります。
――変異は、コピーミスによるものですか・・・。そう言えば、先ほどお話ししたベンチャーでは毎月研究報告をしていましたが、それを聞いていて私が感じたことは、原子や分子には意思があるのではないかということでした。原子や分子の振る舞いを見ていると、そう思えてなりませんでした。
栢森 聡さん:ああ、それはサイエンスのロマンに触れたということですね・・・。いい経験をされたと思います(二人大笑)。
私がサイエンスに目覚めたのは高校生の時でした。面白くてしょうがなかったですね。何故かというと、ロマンチックだったんですよ。A+BがCに変化する。何故そういう変化が起こるのか、私はそこにロマンチックなものを感じました。


(大学学科25周年記念誌より)
――ロマンですか・・・(笑)!
栢森 聡さん:人間関係もそうだと思うんですよ。グッドケミストリーという言い方をしますよね。相性がいいのはグッドケミストリー、化学変化が起きているということなんですよね(笑)。人間関係においても、サイエンスリアクションが起こっているんですよね、きっと。
ひょっとしたら昆野さんも、人間関係にロマンを感じてリレーインタビューをされているのでは?
――そりゃ、分かりませんねー。私は嫌いな人間がいませんが、ロマンを感じることはないですね(大笑)。
先日知人から借りた本は波動や周波数について書かれたもので、とても興味深いものでした。ケミストリーと周波数も関係しているんだろうなと思いながら、栢森さんのお話をお聞きしていました。
栢森 聡さん: 波動というのは不思議な世界ですね。先日のトンガの大噴火による津波も、そうした現象が起きていたようです。シミュレーションでは波が消えていくはずなのに、予測に反して大きくなっていくとか。相乗効果なんですよね、きっと。摩訶不思議の好奇心が湧いてきますよね(笑)!
――その本には、決心した瞬間にその人の周波数が高まると書いています。その人の関係性や影響力も変化するでしょうから、仕事と関連付けながら考えていました。
栢森 聡さん:面白いですね!そんな気がしますね。
――決心せずに迷っていると、ポジティブな連鎖が起きにくいということでしょう。損得を横に置いておけば、とっくに答えは決まっているはずなのに、考えることで蒸し返していますよね。
栢森 聡さん:ビジネスでは惑わされることが多く、判断や意思決定に迷うことも度々あると思います。その意味では、独立する時にまず企業理念をつくることが大切です。これは私も教えてもらったことですが、目先のことに目がくらみ、手短なことや悪い誘いに乗ってしまうことを回避することができます。それは、いつも企業理念に立ち返ることができるからです。
――そもそも何のために。いつもそこに立ち返って確認できれば、道を外すことはないですからね。
栢森 聡さん:会社の中でも、声の大きな力の強い人の方向にもっていかれてしまうことが結構ありますからね。
――意図的に、かき混ぜる人もいます。
栢森 聡さん:会社は、そうなりがちなんですよ(笑)。
――どこにでもあることですが、それも含めて既得権益ですからね(笑)。ところで今は個人事業主ですが、法人化のご予定はありますか?
栢森 聡さん:現在、法人化に向け準備を進めています。実は開業時から法人にしたかったのです。ビジネスで社会貢献することを考えると、一人でやれることは小さいので、法人にして何人かの人たちともっと大きいことをしたいという想いが強くなってきました。そういう中で、今後も教育に力を注いで広めていきたいと思っています。
これまでの個別企業に対するコンサルティングから、多くの方々に知識や経験、考え方を普及していきたいという観点で法人化を目指しています。
ユニバーサルに広めていきたいという私なりの強い想いがあるんです!

クリーンEXPO/東京ビッグサイトのセミナー
――いいですね!
栢森 聡さん:現状ではプロの清掃という仕事は、決してもてはやされている仕事ではありません。しかしプロの人たちは、給与水準が低く、汚い、辛いと言われつつも、自分から買って出て仕事をしています。
エッセンシャルワーカーの代表格は病院関係者と言われていますが、世界的には清掃に従事する人たちも、社会にとって欠くことのできない仕事をしてくれるエッセンシャルワーカーです。
ですから、そういう人たちにとって必要なことは、知識やプライド、高い評価なんです。そういうことに対し、どのように貢献できるのかを考え、私はチャレンジしていきたいと思っています。
――社会全体にとっても、とても大切なことですね。
栢森 聡さん:卑近な例でいうと、新型コロナウイルスが流行しはじめたころ、清掃業者にアンケートをとったところ、約30%は、新型コロナの消毒・除菌作業を「依頼はあるが断っている」または「別の企業に委託した」と回答がありました。
自社の従業員はコロナ患者が出た施設の清掃はしたくないという意見があったり、それぞれの会社の経営層も、従業員が感染する危険が高いので清掃をさせたくないという意見も見られました。一方、知識の習得や、研修を求める意見は多かったのです。
そもそもキレイにするということは、清潔を保つということとイコールです。つまり、清潔を保つための知識をもたなければそうはならないのですが、単に清掃作業の工程を行うことだけが定常化していて、清掃することでどの程度清潔さを保っているのか分かっていないし、実感もない状態で仕事をしているケースも多い。
こういう世界なんですよね。それって可笑しいでしょ、と思ったんです。
清掃の品質をちゃんと理解し教えられる人財が増えないと、自分たちの仕事に誇りをもてないし、本当に良い事業環境にはなれないんです。そこで私に何ができるのか、ずっと考えています。
――使命感というか、志しの高さを感じます。
栢森 聡さん:今日やったことが、明日は正しくないかもしれない。もっと素晴らしく効率のいい、品質の高い成果が出るやり方があるかもしれない。そうやって私自身も学んでいき、学んだことをアップデートし普及させていきたいと思っています。
また、ラボということにも思い入れがあるんです。サイエンス理論を語っていても伝わらないことも多々あります。ですから必ず実験をするようにしています。簡単にできる実験を通じて、清掃を身近に実感してもらうことにつながります。

――HPを拝見すると発明の受賞をされていますね。
栢森 聡さん:実は定年退職前に登録になった特許が、定年退職をした後に発明協会に認められ表彰されました(笑)。思いがけないことで、とても嬉しかったです!
現在その商品は、広く普及し使われていると聞いています。

――独立されてから最も気をつけていることは何ですか?
栢森 聡さん:分かりやすく伝えることです。これまで私が当たり前に使っていた言葉や科学のことなどを、どのように伝えたら分かってもらえるのかとても悩みます。
一方で、実は開業してから楽しくてしょうがないんです(笑)。前の会社の人と会うこともあり、起業したいけど自分には無理だという人もいれば、私が執筆している雑誌を読んで羨ましがる人もいて、みなさんから応援してもらっています。それを実感できることが、とても嬉しいし楽しいですね(笑)。
企業に帰属する立場から離れてみて、思想の自由度が広がりました。起業家には無限の可能性があることを知りました。
――ところでどんなお子さんでしたか?
栢森 聡さん:ちょっと恥ずかしい話なんですが、母の話によると私が幼稚園の時に呼ばれていたニックネームは「博士」だったらしいのです。
覚えていませんが、何か偉そうなことをしゃべっていたのかもしれません(二人大笑)。
――幼少の頃に、そうやって自意識が芽生えていったのでしょうね。
栢森 聡さん:確かに、そうだったのかもしれませんね。私、褒め言葉に弱いんです(笑)。
――今日は、かなりエネルギッシュなお話をお聞きすることができました。ありがとうございました!
セレンディピティという言葉を、よく耳にしました。
一言でいうと、偶然の発見。
突きつめれば、それは偶然ではなく必然といえるものなのかもしれません。必然と思えるほど、科学者の探求心は純粋なものではないかと感じます。
栢森さんの目も、純粋で澄んだ目をされていました。
今を生きる私たちは、科学技術の進歩と共に歩み続け社会経済や医療、生活の利便性向上など多大な科学の恩恵を受けて生きているといえます。
しかし一方では、原子力技術のように人間がコントロールできず制御不能な状況に陥ったり、軍事利用され多くの命を奪ってしまったことも事実です。
すでにEUは、原発をグリーンエネルギーとみなしCO₂排出抑制の選択肢とするほか、民間投資を促そうとしています。またSDGsのような途上国の経済発展を大前提とした気候変動の抑制は、イノベーション(技術革新)ありきで温室効果ガスの排出目標を達成しようとする意図の現れでしょう。
あるいはドローンによるゲーム感覚で展開される戦争など、科学の進歩とは裏腹に、人間が生きづらい地球・社会に進んでいます。
本来科学者は、いつも純粋に、わからないことを知ろうとして探求を続けているのだと思います。
純粋な探求によって築き上げられる科学技術が、軍事利用や政治利用されないように、今後益々私たちは注意深く対処していく必要があります。
子どもたちに、より良い地球・社会をつなぐために。
栢森さんは、高い倫理観をもって科学を生かすことの大切さを教えてくれる人でした。
■栢森 聡さんのプロフィール

化学メーカーで研究開発20年、外資系メーカーでビルメンテナンス清掃業者向けケミカル類商品開発15年の知識・経験を基に、定年退職後の2020年に開業。プロ清掃業界雑誌・業界新聞等にて解説記事を連載しながら、清掃用ケミカル・衛生管理・新型コロナウイルス感染対策等の教育セミナーを多数行っている。またニーズに応じて企業向けや一般向けに個別コンサルティングを行っている。
【主な事業】
◆清掃・衛生管理・感染対策に関するコンサルティング
◆技術解説記事の執筆・教育セミナー
◆清掃・衛生管理用の関連資器材の販売
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