青沼かづまさんへのリレーインタビュー

トップバッターの鈴木重子さんからご紹介いただいた方は、俳優の青沼かづまさんです。
インタビュー当日は、青沼さんが代表を務めるオーガニックシアターの演劇とThe Buddy Timeのライブが吉祥寺 曼荼羅で開催されました。インタビューはリハーサル直前の慌ただしい時間を割いていただき実現しました。
お会いして約3分後に趣旨をご説明している途中、3.11南三陸の写真(「TEAM社会企業家」スライド写真)をご覧になった瞬間に、青沼さんのスイッチが入ったような気がしました。そこからインタビューが急発進しました。(聞き手 昆野)

Q:どんなお子さんでしたか?

青沼かづまさん:私の子ども時代ですか?結構遠い昔の話ですね(笑。
特徴的だったのは、父の転勤により小学校の時に4回も転校したことですね。そのためあまり人と関わることができなかったんです。転校生って何となく注目されていて、いじめられるかも知れないという危機感をいつも感じていました。

両親と私と妹の4人家族でしたが、夫婦の会話がなく、食卓を囲むといつもし~んとしていました。子ども心に、父と母の機嫌を伺いながら何を考えているんだろう、僕のことどう思っているんだろう、何か悪いことしたのかなあとか。いつも、いつも心の中のつぶやきがあって、伝えられない、自分の気持ちを外に表せられない思いがあり萎縮していました。

「人の心が透け透けにみえたらどんなにいいだろう。心の中が見えたり伝わったら、どんなに気が楽なんだろう」と思っていました。すべて心の中でつぶやいている状態で、今想えば演劇をやるべくしてそういう子ども時代を過ごしたのかと、運命的なものを感じてしまいますね(笑。

Q:何が転機になったんですか?

青沼かづまさん:大学受験をことごとく失敗したことですね。
実は、父は旧建設省の理科系の公務員で、私はいつの頃からか自分も父のように公務員になることが正解だと思っていました。安定した仕事が一番いいんだと。すごく、刷り込まれていたのかなあ。

ところが受験した理科系の試験を全部失敗したんです。そこで初めて、「ちょっと待てよ」と。
そもそも数学嫌いだし、物理も化学も興味ないし…、あれ??それまでの人生で初めてストップがかかったんです。はたと振り返る機会をもらったような気がしました。

そして翌年入ったのは文学部でした。そこで初めて演劇と出会いました。
演劇部に入ってみたら、これがすごく面白かったんです。特に先輩がすごく面白くて、飲み歩いたり、本音で話をしたり、人間のぶつかり合いがあったり、お酒を飲んで怒り出したりして…、何ていうか生きてる充実感を初めて味わったんですね。それからもう演劇の虜になりました。

Q:一言でいうと演劇ってどういうものですか?

青沼かづまさん:心の中の世界を、全て表に出して、光を当てるような仕事です。
本当はどういう気持ち?本当はどうしたいの?本当は仲良くしたいんだよね?そういう心の奥底にある思いの全てを明らかにして、伝える仕事です。
日常の人間関係は建て前が多く、本当のことを話せなかったり、そうかと思うと愚痴になったり。でも愚痴の奥には、もっと生きたい成長したいという願いが必ずあるはずで、それがもったいないことになっています。
その人その人の本来の力が、生きてきた環境や親の価値観など、現実の社会ですごく縛られてしまっています。そういうふうにしか生きられないという思い込みによる諦めがあり、希望を失ってしまっています。
志しをもって仕事をしている人でも、居心地のいい方に流れたり揺れ動いたりします。そのままでいると無意識のうちに意識漂流してしまいます。結局、人生の波にもまれ、自分の人生の主導権を自分が握っていない人がとても多いですね。

しかし、そんな社会であっても演劇には風を起こす力があり、その役割があると思っています。心の中でつぶやいているだけで、隠していることを、演劇はすべて明らかにして光を当て明け透けにして、もう一回捉え直すことができます。つまり人生を意識化できるということです。

Q:今の夢は何ですか?

青沼かづまさん:次の世代の人たちである中高生に、全国の学校を回って芝居を見てもらいたいと思っています。そして多くの人たちに見てもらえるような作品を、つくりたいと思っています。

Q:子どもたちに何を伝えていきたいですか?

青沼かづまさん:今の社会はとにかく情報量が多く、20歳の自分の息子などをみていると、いい意味でも悪い意味でも社会の状況がわかったような気になってしまっています。そして自己完結してしまう。
明日何が起こるか誰にもわからない時代になってきているのに、安定を求めて生きています。人生で安定するところなどないのに、それを求めている。しかし一方で私たちは3.11を経験しました。起こり得ないと思っていたことが起きてしまったという経験を、実際私たちはしているんです。そのことを、しっかりと心に刻み込まなければならないと思っています。
変化ではなく安定を求めるということは、心のどこかに世の中に対する諦めがあるような気がします。だけど子どもたちには諦めないでほしいんだな…(しみじみと)。

世の中をこうしたいとか、自分はこう生きたいとか、おじいさんおばあさんを元気にしたいとか、すごくシンプルなところに夢や希望があると思います。それをわかってほしい。
とてもシンプルに生きられたら、自分がどんな職業に就いていても、生き生きと生きていけるんじゃないかな。

子どもたちには、そうあってほしいと思っています。

『見習い天使』公演後の青沼かづまさん(左)

インタビュー終了間際に、階段の下から「あと10分でリハーサル始めますよ」と声が掛かりました。
その後開演した『見習い天使』で、青沼さんはボスのボス役をされていました。『見習い天使』は、入院している男性患者がちょっとした手違いによって、あの世とこの世の境まで来てしまい、その堺にいる見習い天使とボス、そしてそのボスのボスが、この世の人々の心の奥底まで透け透けにして、人々の心の豊かさや人生の素晴らしさを伝えようとするものでした。
青沼さんがインタビューの中で、子どもたちに伝えたいとお話しされていたことそのものだったんですね。なるほどなあ・・・。

仕事を通じて多くの人たちにメッセージを発信し続けていらっしゃるんですね。

鈴木重子さんもそうでしたが、青沼さんもご幼少の頃から両親初め周囲の方の影響によって、色々な思い込みをもって生きてきて、ある日何かのきっかけで「自分らしく生きてもいいんだ」と気づき、新しい人生を歩んで来られたような気がします。

私は、生まれて初めてみた演劇に感激するとともに、演劇をみながら自分が25歳の時に病床で、どこかの星のクレーターの上に立っている自分の後ろ姿をみていた自分を想い出していました。『見習い天使』は、私が忘れつつあった大切な何かを想い出させてくれました。

青沼さんに感謝です。ありがとうございました。

次回のリレーインタビューは、青沼さんにご紹介いただいた方にインタビューをさせていただきます。

どうぞお楽しみに!

■青沼かづまさんのプロフィール

オーガニックシアター代表。俳優・アクターズセラピスト・演出家。
ニューヨーク・ザ・アクターズスタジオ正会員ゼン・ヒラノ氏に師事し、ニューヨーク・メソッド演技を学ぶ。オーガニックシアター主宰。俳優として数多くの舞台で主演するとともに、テレビドラマ・CM等でも活躍。また、15年間に渡って演技ワークショップを開くとともに、バンタン映画映像学院、俳優養成所ATN、池袋コミュニティ・カレッジ等の講師を務め、次世代の俳優を養成している。近年はナガノユキノと共にWLAを提唱し、登場人物の喜び悲しみ、苦しみにどこまでも迫りたいと探求している。

《主な作品》 舞台:『デッド・エンド・キッズ』出演/『ミュージカルGIFT~大人よ子どもの夢を消さないで~』出演『CHANGE』出演/『第二章』出演/『父と暮せば』出演/『天使見習い』出演/『熊』出演テレビドラマ:『銃口』出演/『丘の上の向日葵』出演/『女優杏子』出演/『牡丹と薔薇』出演

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