田上彩さんへのリレーインタビュー

『いただきます食堂』代表の梶原裕矢さんからのリレーインタビューは、醗酵人の田上 彩(たうえ あや)さんです。

田上さんが発酵の魅力に惹かれたのは3.11がきっかけだったと言います。3.11によって、ただ消費しているだけの生活が如何に脆弱なのか思い知らされたと言います。
モデル、ミスユニバースのファイナリストを経験した田上さんが、海・風・太陽・土・野菜・微生物たちと触れ合う中で何を感じ何に気づいたのか。

素のままに生きる田上さんとお話ししていると、 透明感と迸るようなエネルギーを感じます。 感覚的で反射的 に思える判断の中に、奥深さを感じてきます。

気がついたら、さり気なくご自身のことを話し始めていました。私は田上さんの話しに追いつこうと、急いで録音をし始めました。(聞き手:昆野)

田上彩さん:当時私は、夜行バスで福島まで行きそこから大熊町まで行ってサーフィンをしていました。都内で 仕事をしていて何となくそれまでフェイクだと思っていた世界観が、自然に触れた時に”これがリアル!”みたいな感覚を感じていました。
それから2ヶ月程経った時に3.11が起きました。

3.11の時は藤沢にいましたが、神奈川県内の広い範囲で計画停電や断水等があって、モノを消費しているだけの生活って凄く脆弱だなと思いました。だから何があっても生きていける生活のベースを自分でつくりたいと考え、とりあえず畑をやろうと思ったんで す。そこで『へっころ谷』に「私畑やりたいんですけど」って通い詰めて、畑を借りれることになり、六本木のアパ レルで働きながら藤沢で畑をやり始めました。サーフィンで波に乗り、畑で土に触れている時の気分はサイコーでした。
その時間のおかげで六本木での仕事も頑張れたので、 自然からエネルギーをチャージするって凄く大切なんだなあと思い知らされました。

――その後、六本木から藤沢にUターンされたんですか?

田上彩さん:そうです。18歳の時から東京でアパレルやりながら20歳でミスユニバースのファイナリストになっ て、モデル、アパレルを続けていましたが2年前に戻って来ました。
その頃『へっころ谷』で働いていたら、周りの面白い女子が集まって来たんです。モデルの同期で伝統芸能をやっている子や、かつお節屋のカツオちゃん、マクロビのケータリングをやっている子、ワインのソムリエなどでした。そこで自分たちでマーケットをやってみようということになりました。
初めは知り合いのカフェの一角でやら せてもらっていて、その後、私のミスユニバースの先輩に紹介された会社の方から六本木ヒルズでやってみないかと言われ、 GIRLS FARMERS MARKETを開催することができました。

GIRLS FARMERS MARKET in 六本木ヒルズ

その時から自分たちでアウトプットするって、こんなにも楽しいものなのかという感覚になりました。コンセプトは現代の食の現状を知ること、そのために何から始めればいいかを考えました。
そして志が一緒の仲間と食の大切さを伝えるために、まずは自分たちにできることから行動しようということになり、小さな小さなマーケットを始めました。それがGIRLS FARMERS MARKETでした。

――若い人たちが農に関わるって凄くいいですよね。農を通じて気づくことも多いので、社会的にもとても大切なことですね。

田上彩さん:そうですねー。自然栽培って結構しんどいですけどねー(笑)。 除草剤を掛けたくなるほど草ボウボウになっちゃうし夏はすっごく暑いしで、ちょっと弱音を吐いていたら畑の相方ちょきんが「自然の中で働けるって幸せじゃない!」って。思わず「はっ!」としました。(ワッハッ ハ・・・)。

――私も18年程前に山小屋を立てたいなと思い、農作業を手伝ったり炭を焼かせてもらったりしていました。 ただ単に一晩中炭焼き窯の前で呑んでいたかっただけなんですけど。25歳の時に死に掛けてその後は余生で したから。

田上彩さん:25歳で死に掛けて、余生で山小屋と炭焼き。生かされた人生って壮絶ですねー(二人大笑)。

――発酵は何から始めたんですか?

田上彩さん:まず最初に味噌を醸そうと思いました。何故かと言うと、ただ本物の味噌を毎日食べたかったからで、生きている味噌をカラダに入れたかったのがきっかけです。
最初に作った時は普通の鍋で5時間くらい火に掛けてやっと大豆が潰れるくらいの柔らかさになり、次に袋に入れて叩いて潰したけどなかなか潰れず・・・。 みんな味噌作りは簡単だって言っていたけど、簡単じゃないじゃん!! と思いながら、なんとか麹と塩を混ぜて丸めて詰めて完成。
その後、味噌の存在も忘れかけた10ヶ月後に、そういえばと不意に想い出し開けて見たら茶色の味噌になってるー!かわいい!私は忘れていたけど味噌は一人でしっかり育っていました(笑)。お料理に味噌を使う時、毎回愛しいかったです。
そんな感動があったので翌年の冬にも作ってみました。今度は圧力鍋で大豆を煮たら20分で完了。10秒でマッ シャーで潰れた・・・。 初めの味噌作りはなんだったんだーと。

――初めは7時間、翌年は1時間。進歩してますねー(笑)。発酵を始めてからカラダに変化はありましたか?

田上彩さん:どんどんカラダの中が綺麗になって軽くなっていく感覚になりました。朝目覚めた瞬間パワフル過ぎる!みたいな感じで、本来のカラダのパワーって凄いんじゃないか!? って身をもっ て体験しています。
普段の生活にも白米に黒米と雑穀米を入れてアレンジし、お味噌汁と梅干しを積極的に取り入れるようにしています。ずっと食べてなかったショートケーキを食べたら、すぐ気持ち悪くなってビックリしました。受け入れないカラダになっていました。ミルクティーも飲んでみたけど2時間くらい気持ちが悪くて、もうショートケーキもミルクティーも必要ないことを実感しました。
あと驚いたことは、2ヶ月目で今まで経験したことのないくらいかなり肌がカサカサになりましたが、3日程で治ってお肌の調子も全体的に良くなりました。毒出しですね。
現代の食はコントロールされていて、かなりおかしなことになっているんですよね。そんな食の実態を何も知らずに無頓着でいても、人間は生きていけるし対応できる。でも、自分のためにも周りの愛する人たちのためにも、真実を知った上で自分は何を選択するかが重要だと思っています。
まだまだですが、そこで行き着いた先が畑や発酵だったってワケです。

――ところで、どんなお子さんでした?

田上彩さん:んーん、男の子っぽかったですねー。兄と弟がいたので男の子と遊んでいる方が楽だねーって感 じでした。サバサバした子でしたね。今も変わりませんけど。

――んー、変わらなそうですな(二人大笑)!モデルになるきっかけは?

田上彩さん:実際モデルの仕事をしたのは、高校時代バイト先のパン屋さんのオーナーが雑誌の編集もしてい て、「モデルやってくれない?」と言われたのがきっかけです。ギャラが良くてモデルって超イイじゃんって(大笑)!
それで高校卒業してアパレルで働きながらモデルのオーディションを受けまくったけど、ずっと落ちまくりでした。

モデル時代

――ご両親は反対しなかったですか?

田上彩さん:全くしませんでした。理解がある両親でとっても自由に育ててもらったんです。

――お父さんは会社員ですか?

田上彩さん:そうです。人工衛星を造るエンジニアで何で宇宙の仕事をしているのと聞いたら 「宇宙の先の先の先がどうなっているか検証したいと思ったんだ」と。「それでどうだったの?」 「わからない」ということでした(笑)。

――科学者ですね。

田上彩さん:両親とも五島列島の島育ちなので、のんびりしていてとっても優しいんです。私も父に似て探求心が強いというか、発酵も畑も土や種からとことん追求したいし、料理も出汁からこだわります。性分ですね。

――お父さんが知りたい果てしない宇宙と、田上さんが知りたい目に見えない微生物の世界とは対極にあるよ うで一緒なんでしょうね。私たちのカラダもそうだし、身近にある全てが宇宙の一部であり宇宙そのものですからね。ワレワレは宇宙人ってことですね(笑)!

田上彩さん:私は今回地球に生まれて来たのがご褒美だと思っていて、いろんな事があってもイマココに存在し ていることと今世の環境が有り難いなーと思っています。

――みんな選んで生まれて来るっていいますからね。人間は全てを選択していると。

田上彩さん:そうですね。あと出会いによって必然的に動かされているということもありますよね。私自身、自 分の意思だけでは今ここにいることはなく、ここに至ることもなかったと思うんです。
例えば3.11で自分の意識が変わって畑をやりたいと思ったら『へっころ谷』に出会った。

見えない大きなものに突き動かされている気がして、みんなそれぞれの使命があると思うんです。
自分の使命に乗っているといろんなことがスムーズな流れになって心地よくなりますね。サーフィンや発酵、畑をやるようになってから、特にそういう感覚が研ぎ澄まされてきて、最近は心地いいか良くないかで物事をジャッジするようになりました。

湘南ファミリー

――本来、みんなわかるはずなんですよね。でも惑わされて鈍っていて自分に自信をもてなくなっています。

田上彩さん:私にとっては、海と土が感性を磨いてくれます。海に行って風や天候などの条件がバッチリ合った 時、凄くいい波に出会えるんです。アタマで考えていても上手くいかないけど、動いていると時々凄くいい波に乗せてもらえるんですよね。
畑の場合は、この時期に種を蒔けばちゃんと収穫できる。やるべき時にやるべきことをやればいいと畑に教えてもらいました。土にエネルギーを蓄える時期は新月なんですが、この時期に種を蒔くと発芽率が明らかに良いということは、新月に目標を決めて行動していくのは理に適っていることなんだと地球から教えてもらい ました。
新月はデトックス力が最も高まる日でもあるんです。実際に自然と触れることによってその時その時いろんなメッセージをもらって、この3~4年で私の人生は凄く変わりました。

――良かったですね!

田上彩さん:はい!

――そのきっかけが3.11ということですか。

田上彩さん:3.11の影響はデカイですねー。『陰極まって陽になる』と言いますが、多分、地球の中の陰が3.11 ではないかと思っていて、3.11以降に目覚めてきた人が多くいると感じます。私、アパレルを辞めようと思っていた時に悪夢ばかり見てうなされていました。怖くて目が覚めるんです。今思うとあれは完全にメッセージだったんですね。ちゃんと教えてくれるんだなあと思えるようになりました。
先日もコーヒー屋さんの友だちと話をしていたら、「今の世の中たとえ感性を研ぎ澄まさなくても生きていける。何となく働いて、自分がどうしたいのかという問いもせず、だけど食べていける。日本人は素晴らしいものをいっぱいもっているのに、生きる能力に欠けている人が多い。海外の人は生きることに貪欲だ」と言っていて、なるほどなあって納得していました。意識が二極化してますよね。

――これから何をしたいですか?

田上彩さん:これまで以上に発酵を広めることはもちろんですが、自分でプロデュースして発酵の加工品を作りたいと思っています。できればご縁がある地域でできないかなと思っていた時に、亡くなったお婆ちゃんのメモ帳から、ある記事が出てきたんです。
それは、島で加工品を作って島で雇用を生むというもので、以前から私がやりたいと思っていたことだったのでピンときました。元々、五島の実家はお豆腐屋さんなので、私にここでやりなさいということかなと思いましたね。
食育もやりたいですね。幼稚園の給食の味噌をみんなで仕込むとか。昔ながらの味噌の仕込みを女子に広めようとモデル仲間に声を掛けたら、「私もつくりたい!」と一気に集まりました。
発酵食を醸せば醸すほど、その菌の状態が良くなって美味しくなるので、ここの菌たちが元気になれば自分たちのカラダの菌も元気になるので凄く理に適っています。今、地球上の菌は全体的に弱くなってきているので、ここで私たち女子が菌を醸せば地球の菌も元気になります!

――サイコーですね、『醸す』っていい響きです!!五島・湘南・東京を繋げてプロデュースしたら面白いです ね。
ところで田上さんはご両親から自由奔放に育ててもらったようですが、子どもたちを見ていてどう感じますか?

田上彩さん:子どもと接していても“砂場ばっちい”とか、手を洗わなきゃとか言って、思いきり遊ぶことがないんですよね。もっと思いっきり遊んでほしいなー。親に怒られるという感覚があるのかなあ。もっと自然と戯れてほしいですが、子どもの良さを伸ばすという意味では日本の教育はどうなっているのかなと思ってしまいます。
人間強くないと生きていけないじゃないですか、いろんなことがあるから。そんな過敏だったらたいへんだよって言いたいですね(二人大笑)。


――大人も親も、みんなが本当に好きなことをやっていれば、世の中が良くなるとわかっていないですよね。好きなことと言うと、自他ともに好き勝手と履き違えてしまう。何が本当に好きなのか楽しいのか、それさえも自分でわからない状態が続いている人が多い。これじゃ世の中おかしくなってしまいます(笑)。

田上彩さん:最近は、好きなことをやろうと準備していて「何やってんの?」って聞かれても説明できるけど、 やり始めの頃の「何やってんの?」は結構辛いものがありました(アッハッハ)。
どうなるんだろうなあと思いつつも、動いているといい流れが起きる。”このまま何も考えずに行こう!法則に身を委ねて。”その意味でも、自然との触れ合いが凄く大切です。

――“何が起きるんだろう”と思って生きるっていいですね!このリレーインタビューもそうですが(笑)。

田上彩さん:インタビューとか、人間が好きじゃないとできないですよね?

――いや、あまり好きじゃないかも。

田上彩さん:どえーー(二人大笑)。

――四男だから、生まれながらに肌感覚で人間の距離感を推し量っているのかも知れません。相手に合わ せようとか考えないし、相手がどう思っていようがそれは相手のことだからという感じです(大笑)。だから私の周りでもいろいろあったと思うんですが、全く覚えていません(笑)。

田上彩さん:行き当たりバッチリですねw どうやら2020年からガラッと女性性の時代に変わるらしく、物質の世界から感覚の世界に移行すると言われています。
人は感じ方しだいで全然違ってくるということを、私は裕矢さんから学びました。そして、そういう意識がカタチになる瞬間に出会います。引き寄せますよね!

一方で、周りの人たちのイメージがその人をカタチづくっていきます。だから自分は何をしたいのかハッキリしていると、周囲のみんながサポートしてくれて少しずつ仕事になったりしますね。自分がどうなりたくて何をしたいのかを、みんなに知らせることが凄く大切だとわかってきます。

――念仏のように(笑)。

田上彩さん:そして、種を蒔くように動く。

代官山でのSURF&FARM

凄く波がいい日を、波乗り言葉で“THE DAY”と言います。
THE DAYは畑にも共通していて、今日この日が最高の出来という日の野菜果物があります。
そういった野菜果物でサーファーの農家さんのメンバーと、SURF&FARMというイベントもやったりしています。
それも流れの中で自然に起きて来る出来事なんですよね(笑顔)!

写真の中の田上彩さんは、いつも口を大きく開けて笑っています。モデルをしていたのに、こんなに笑っていていいものかと思うほどのあっけらかんぶりです(笑)。
そんな素朴さが、とても印象的でした。

3.11を経験して、田上さんは日々私たちが暮らしている生活基盤の危うさを感じたといいます。その危うさは利便性の裏返しであり、自分以外の何かに頼って生きることの中に孕み続けるリスクといえます。

田上さんはそのことを直感的に感じ、本来の自立は自然との共生の中で育まれるものであり、そしてそれを実践することこそが人としての真の歓びを味わえることに繋がると、天然的に理解されているのでしょう(笑)。

こういう若い人たちが増えていったらいいですね。
こんな感性の人たちと生きるって楽しいですよね。

人間本来の歓びを感じて生きること以上に、生きる上で大切なことってあるのかなあ。
そう思わせてくれる田上彩さんでした。

■田上彩さんのプロフィール

湘南生まれ湘南育ち。醗酵人。
モデル、ミスユニバースを経験。無農薬で野菜を作るうちに、料理にも興味が湧き寺田本家の本「発酵道」をきっかけに醗酵料理の虜になる。マクロビオティック、自然療法を生活に取り入れながら望診法を学び、発酵料理 屋へっころ谷で学んだのち、醗酵料理と YOGAのリトリート企画や甘酒や味噌、梅干など醗酵料理のワークショップで昔ながらの手仕事を広める活動を行っている。太陽と海をこよなく愛する発酵伝道師。

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