表現をみずみずしくする方法 ①自分のキャラクターを知る

オーガニックシアター・リアクション研究所では、人物のキャラクターを、リアクションによって「喜・怒・哀・楽」の大きく4つにつに分けて考えます。一つの事象に対して、どうリアクションするかでキャラクターが見えます。

役作りをするとき、まず自分のキャラクターを知ることが一番大切で、避けて通れないものです。
けれど、これが難しい。

それは、折々またお話していきますが、日々の自己観察、人間探求の積み重ね、そして少しばかりありのままの自分を受け入れる勇気が必要です。役と自分の違いを知って、自分と近い場合は、自分の体験や普段のリアクションの習慣を膨らましたり、加工して使うことができます。
すると、みずみずしい、リアリティのある人物が舞台の上に現れ出ます。
遠いキャラクターでも恐れることなかれ。
人間の心中は深遠で、自分でも知らない人をひそかに住まわせていますから。それもまた後々に・・・。

まずAさんの場合、「哀」のキャラクター。自己肯定感が少なく「恐れ」の感情が強いタイプ。
「哀」タイプの俳優さんは、自意識の鎧の中にカチカチの心が入っていて、緊張が強く心に鎧を着ている戦闘状態で、自分を守ることでいっぱい。頭の中は大忙し。妄想が駆け巡っています。
間違えたらどうしよう、叱られたらどうしよう、きっとみんな下手だなと思ってるんだ、へたくそと思っているんだ、役を下ろされるかもしれない・・・などなど。肩が上がり、目は皿のよう、太ももは震え、胃が痛くなりそうになっている。相手のセリフ、相手の微妙な動きを受け取れなくなっています。
これではどんなにけいこをしても、発見も深まりも期待できません。段取りだけ覚える稽古になります。エネルギ―と時間の無駄使いです。

ある有名な演出家がそんなふうに緊張している俳優に「緊張するな!」と叫んだのでした。
何と残酷な話でしょう。
頭真っ白、ますます緊張し何も創造的なことはできなくなります。自分には才能がない、と悲観してしてしまう場合もあります。俳優に人権はないのか、と思ってしまいますよね。
でも、叫びたくなる気持ちも少し分かります。その時きっと「哀」タイプの俳優は、指示だけを待ち、ロボットのように動いて演出家を混乱させていたのです。

私の知っている「哀」タイプの俳優のAさんは、賢くて努力家で、おまけにハンサム。
どんな舞台でも主演を張ってもらいたいと願い、レッスンをしていたとき、とても悲しそうな顔で「もう何年もレッスンに通っているのによくなれない」と言ってきました。
私も、無力感を感じ、もっといい先生についてもらったほうがいいのかな、と、考え、去り行く後姿を見守りました。

ある時、舞台のお知らせをいただき拝見。
その時、気づいたことがありました。周りに気を使って、舞台に立つ前に自分の心を整える時間をとってあげていないのではないか、と。

才能とかの問題ではない。私のレッスンの問題でもない。
表現者はどんな表現も、今自分の心に何が起きているのかをじっくり見てあげて、それを単に批判したり否定したりせず、ありのままに受け入れてあげることからしか出発できないのです。
特にネガティブな感情、「怖い、疲れた、いやだ、うんざりだ、もうだめだ」などなど、口に出して体を緩めてあげるのです。
ダメな自分でも大丈夫。そう感じているのは一部の自分。
もう一人の自分は、もうそこにちゃんと来て、がんばろうとしているのですから。

次回は、俳優の青沼氏にその対処法をインタビューします。