俳優の青沼かづま氏にインタビュー(その3)

ユキノ:あれから早30年。では、振り返ってあの時の大切な転換点を聞かせてください。

青沼:ライル・ケスラーの「孤児たち」を翻訳しなおしたものでしたね。
10代の孤児二人を親代わりになって世話をするやくざ者という、今までにない役どころでしたので、はじめ戸惑いました。
子供も持ったことないし。だれかを守り、支え、慈しむような役、全くどこから手を付けてよいのか。
やろうとすればするほど、役が遠のいていくような感じがあって。

ユキノ:しかも、シアトルの下町のやくざなんてね・・・。
私は、この芝居をニューヨークにいたときに見て、しばらく涙が止まらなくて、立ち上がれなかったんです。日本に戻ったら絶対やりたいと思ってました。
でも、苦労しましたね、役作り。

青沼:自分がうまくやれないんじゃないかとか不安になるのをやめて、今、目の前にいる若い俳優さん二人に意識を向けてみました。二人が、何か困ってないか、おなかすいてないか、寒くないか、などと。
とにかく不安になりそうな自分を脇において、関心を二人に向けたのです。
体の力を抜いて、ただ相手のセリフに耳を傾け行動を注視しました。すると、どうセリフを言ったらいいか、なんて考えなくてもすんで、楽になったんです。
余計な緊張が、すっとなくなりました。

ナガノ:そうだったんですね。おかげで賞もいただき、再演を何度も重ねることができましたが、あの存在感はやはり、自意識から外れるところから獲得したのですね。
何と、役者という仕事は面白いのでしょう。
自分を捨てた時、自分が蘇るなんて。

次回は、「父と暮せば」の時のエピソードと、さらに、雑念から解放されるための意外な方法です。